「クラウド型」を推す三つ目の理由は、「能力差」の出にくさです。

今や医療ニーズは多様化・専門化・複雑化する一方。

添付文書の内容を掲載しただけの「古典的」な医薬品集はもはや使い物になりません。

必然的に薬剤師は、添付文書に記載されていない情報を入手するために、文献を調べたり、ネットで検索したり、メーカーに照会したりしなければなりません。

従来以上にDIリテラシー(目的の医薬品情報にたどり着き、それを正しく有効に利用できる能力)が要求される時代。

言い換えれば、それだけ薬剤師間の「能力差」が出やすい時代が到来しているのです。


問い合わせを受けた際の薬剤師の対応を眺めてみると一目瞭然です。

ベテランは即座に文献を紐解き、それを元に最適な回答を返します。

ところが、若手は目的とする情報にたどり着くのが精一杯。

情報を十分に吟味できぬまま回答してしまったり、先輩に教えられたままの情報を返さざるを得なかったケースも散見します。

※6年制に移行したとはいえ、DI業務に関する教育体制はまだまだ不十分のようです。

このままではベテランと若手の「能力差」は開く一方です。


下記は「医療機関で普遍的に必要とされる医薬品情報の調査」(谷藤 亜希子, 野崎 晃, 槇本 博雄, 平野 剛, 平井 みどり;医薬品情報学 Vol.19 (2017) No.2 p.82-90)で紹介された、各医療機関のDI室で作成されている資料(アンケート結果)です。

・術前休薬に関する資料
・フィルター使用やルートの素材に注意が必要な注射薬の資料
・ハイリスク薬の一覧資料
・内服薬の簡易懸濁・粉砕・分割・一包化の可否に関する資料
・インスリン製剤の一覧資料
・注射薬の配合変化に関する資料
・注射薬の安定性(溶解性・外袋開封時。冷所保存逸脱時)に関する資料
・オピオイド薬の投与量換算の資料
・運転等に注意を要する薬品の資料
・注射薬の血管外漏出に関する資料
・投薬日数に上限のある薬剤(麻薬・向精神薬他)の資料
・定期的な検査を要する薬剤の資料
・腎機能障害・肝機能障害時の投与について注意が必要な薬剤の資料
・小児の投薬量の資料
・採用薬の後発品と先発品の対応表
・造影検査時に注意が必要な薬剤(ビグアナイド薬他)の資料
・抗菌薬の分類・投与量・略号などの資料
・輸液注射薬の組成表
・配合剤と採用薬の対応表
・相互作用の資料(グレープフルーツ・食品との相互作用)
・外用剤の安定性に関する資料(軟膏や吸入剤の開封後の使用期限)
・ステロイド外皮用剤の効力別の一覧資料
・注射薬(主に輸液)のバッグ予備容量
・注射用抗がん剤の調製に関する資料
・吸入薬の分類やデバイスをまとめた一覧資料
・抗がん剤レジメンの資料
・MRI時に注意が必要な外用剤(金属支持体の貼付剤)の一覧資料
・名称や外観が類似する薬品の一覧資料
・妊婦・授乳婦への投薬(解熱鎮痛薬を中心に、診療時間外に処方される頻度が多い薬剤の中で妊婦・授乳婦へ投薬が可能なものの一覧)
・禁忌に記載のある疾患名との対応表
・中毒時の対応と解毒薬の資料

このような汎用情報も「クラウド型」ならば自由自在に盛り込むことが可能です。

そして、薬品名検索のみであらゆる情報に迅速アクセス!

情報の「収集」が容易になれば、情報の「評価」「加工」に充てる余力が持てます。

そうなれば、「能力差」も早晩縮小できることでしょう。


【付記】

類似の医薬品情報システムには「書籍費の削減」を謳い文句にしているものも散見します。

しかし、誤解してはいけません。

「クラウド型」はあくまで「早引き」用の情報源です。

よって、引用元の書籍は最低1冊は必要で、その利用方法は熟読しておくべきなのです。

医薬品情報は日々変動するものなので、最新の添付文書で確認する作業も不可欠です。


こちらの記事もどうぞ ⇒ フォーミュラリーによろしく 第1話「壁か扉か」
                 フォーミュラリーによろしく 第2話「情報の信頼性」


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